●カヴァルの紹介●

写真:ブルガリアのカヴァル(D管)

 カヴァルという笛を知っていますか?バルカン半島や小アジアを中心に分布する笛で、具体的にはブルガリア、マケドニア、トルコ、ルーマニア、アルバニア、ギリシャ、アゼルバイジャンなどの国々(わー、見事に馴染みの薄そうな国ばかり←失礼なヤツ)で、微妙に違う形・穴数・名称を持ったカヴァルが使われてます。

 さて、私は何でこんなにマイナーな笛に興味を持ち、演奏するに至ったのでしょうか?一言で表すとしたら、「一本の笛で色んな音が出せる」ことです。3オクターブ近い音域を持ち、シュワシュワしたかすれた音から、ピーンと張り詰めた高音、オクターブ重ねた音を一度に出す奏法や、クラリネットのような全然違う楽器かと思う音を出す特殊奏法まで、たった一本の笛で表現できるのです。こんなに可能性が広い笛があるでしょうか?これに比するとしたら、日本の尺八ぐらいしか思い当たりません。あれもすごいですよね。

 では何故素直に?尺八に行かなかったのかというと、もうひとつの理由「中近東風のエキゾチックさが素敵」という魅力が私を惹きつけたからです。前述の国々をすべて「中近東」というのは乱暴ですが、地理的にも近く文化的にも互いに多くの共通点を持っています。いわゆる中近東風の音階(レミbファ#ソラ〜みたいな音階など)もそうですし、リズムも5拍子、7拍子から9、10、11、13、15、18、22…拍子など、変則的なリズムが多く刺激的です。しかも、これら変拍子で作られた曲の多くは、驚くべきことに伝統的な舞曲です。どっかの現代作曲家が眉間にしわ寄せて、電卓片手にひねり出した(←変な表現)リズムじゃなくて、ナチュラルでトラッドな感性からほとばしるリズムなのです。すごい文化ですね。実際慣れてくると、とてもノリやすくなるのがまた不思議です。

 こうしたわけで、日本でほとんど情報も楽器もない中、敢えてカヴァルかな?と至ったわけです。ちょっと興味を持っていただけたでしょうか?

 さあ、ノってきました。もう少しカヴァルにまつわる話を続けて良いですか?では、カヴァルの生い立ちでも話しましょう。カヴァルの祖形は、古代エジプトやメソポタミアの絵画や彫刻に登場します。これらの直接の子孫は、アラブ諸国のナイ、トルコのネイ、イランのネイなどの、葦で出来た笛だと思われますが、ナイもネイもカヴァルも大きな特徴が一致しています。それは「吹き口がない!」ことです。もうちょっと正確に言うと、吹き口に音を出し易くする仕掛けがなく「単に切りっぱなしの筒」あるいはそれに近い形状だということです。こんなのが果たして鳴るのか?と思われるかもしれませんが、これこそが先に述べた「一本の笛で色んな音が出せる」秘密なのです。これらの笛で音を出すのは多少コツが必要で、鳴らせるようになるまでの苦労はおそらく世界一難しい楽器だと思われます。でもその代わり、吹き口に余計な仕掛けがない分、ちょっとした口の形や当てる角度で、多彩な音の変化が付けられるというわけです。


写真:吹き口比較。左より、ブルガリアのカヴァル、トルコのカヴァル、トルコのネイ。

 現在イスラム圏を中心に分布するネイやナイの類は、中世から近代に至る過程で、宮廷音楽やイスラム神秘主義の祭儀音楽の中心的地位を獲得し、正式で立派な立場を築くことになりますが、一方カヴァルやそれに類する主に木製の笛たちは、羊飼いの手に渡り、暇つぶしに吹かれたりするという至って庶民的な用途の楽器になりました。同じ親から生まれた、対照的な境遇の兄弟。なぜなんでしょうね?

 このような事情があり、ナイやネイに関する歴史的文献は数多く残っている(とはいえ私は直接読めませんが)のに対し、カヴァルについて残っているのは、主に民話や言い伝えです。私が知る限りでの主なモチーフは、例えば笛吹きと精霊・悪魔との知恵比べ、あるいは笛の吹き比べのような話や、笛を使って思うがままに羊の群れを操る話、笛の上手な羊飼いの育てた羊は良く乳が出るなどという話です。似たような話は中央アジアから北アフリカの西端まで広がっているということで、いかにカヴァルのような笛たちが羊飼いたちから愛されたか、またこれらの笛が長い年月をかけて、こうした牧畜民の手から手を経て、いかに広大な範囲を移動したかということが窺われます。なんとも大陸的ではありませんか。

 さて、ここまでお話しした辺りで、「そろそろ何か聞かせてよ!」ってタイミングだと思うんですが、実は今イスタンブールに居りまして、録音機材がしょぼいカセットレコーダー一個しかないんです。代わりにといってはなんですが、プレイステーション用の「ミスタードリラーグレート」というTVゲームがありまして、私がカヴァルで参加した現在のところ唯一の録音物です。もし気が向いたら聞いてみてください。ゲームもハマりますよ。ちなみに使用個所は「インド」ステージです(何故だ!?)。「中国」ステージではアンデスのケーナも吹いてます(おい!)。サントラCDもありますよ。

 と、ぱっとお聞かせできるものもなく、何ともしまりが悪いですが、魅力の一端をお伝えできたでしょうか?帰国したら徐々に音源もアップしたり、ライブもしよう思いますので、その時にはぜひお聞きください。「all about KAVAL !」とは我ながら大きく出たものですが、カヴァルのすべてを知り尽くすこと、音を引き出すことは、私の夢でもあります。この夢がどこまで果たされたか?が、今後のこのホームページそれ自体になりますので、その実現度合いを暖かく見守っていただければと思います。また、このページではカヴァルや民俗音楽にまつわる話題、トルコやブルガリアを中心とした現地情報などを数多く取り上げて行くつもりなので、思い出した頃にトップページの更新情報などチェックしていただければ幸いです。たまたまここに辿り着いた人も何かの縁。始まったばかりのホームページですが、今後とも末永くよろしくお願いします。

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